データセンター向けGPUの役割と利用方法とは?【トゥモロー・ネット テックブログ】

AIモデルの構築や科学技術計算、大規模シミュレーションなど大量のGPUリソースを利用する場合、安定した電源供給や冷却設備などの観点から、GPUを搭載したサーバーを通常データセンターに設置し利用します。近年ではGPU専用のデータセンターを構築する動きもあるなど、GPU需要の高まりとともにデータセンターにおけるGPUサーバーの設置・利用も進んでいます。
この記事では、データセンターにおけるGPUの用途や利用方法、データセンターにてGPUを運用するメリットや注意点についてご紹介します。
目次
データセンター向けGPUとは
データセンター向けのGPUは、大規模なAIモデルの学習や科学技術計算、ビッグデータ分析など、膨大な計算資源を必要とする処理を支える中核的な存在です。ここでは、その役割や利用方法について解説します。
データセンターにおけるGPUの役割
冷却設備や電源設備が整備され、十分な設置スペースも確保されているデータセンターは、GPUサーバーの導入に最適な環境です。複数台のGPUサーバーを設置することで、AI研究や大規模データ分析、金融モデリングなど幅広い分野の高度な計算処理を効率的に行うことが可能となります。
主な活用分野
AI・ディープラーニング:画像認識や自然言語処理、生成AI(LLM)の学習・推論
科学技術シミュレーション:気象予測、流体力学、材料設計などの大規模計算
金融・ビジネス領域:リスク解析、アルゴリズム取引、ポートフォリオ最適化
ビッグデータ分析:膨大なデータ処理や機械学習の前処理
このように、GPUは従来のCPUでは処理に膨大な時間がかかる計算を高速に実現し、研究開発やビジネスの競争力を支えています。
GPUリソースの効率的な活用方法
データセンター向けGPUは高性能であるがゆえに、効率的に運用する仕組みも重要です。GPU仮想化やMIG(Multi-Instance GPU)といった技術を活用すれば、単一のGPUを複数の仮想環境に分割し、同時に複数のユーザーやワークロードに提供できます。これにより、研究機関や企業ではコストを抑えつつ柔軟な利用が可能になります。
また、GPUだけでなく、CPU・メモリ・ネットワーク帯域・ストレージといった周辺環境の最適化も重要です。これらのバランスが整うことで、GPUの性能を最大限に引き出すことができます。
なお、GPU仮想化については以下の記事でご紹介しておりますので、併せてご覧ください。
※参考記事:仮想GPU(vGPU)とは?仕組みやAI分野での活用例
データセンターでGPUサーバーを運用するメリット
データセンターでGPUサーバーを運用する最大のメリットは、安定性と拡張性にあります。電源や冷却、遮音などのインフラが整っているため稼働率が高く、大規模なGPUを長時間稼働させるような用途でも安定して利用できます。また、需要が高まった場合にはラックやGPUを追加することでスケールアップが容易で、成長に合わせた柔軟な運用が可能です。
コスト面でも優位性があります。多数のGPUを一元的に管理することで調達や運用の効率が高まり、単体運用に比べてコストを抑えられます。さらに、複数ユーザーでのリソース共有を行うことで、無駄のない利用が実現できます。
運用負荷の軽減も大きな魅力です。データセンターには保守や監視の体制が整っているため、社内で常時対応を行う必要がなく、IT部門の負担を軽減できます。加えて、環境配慮の観点からもメリットがあります。再生可能エネルギーを利用するデータセンターや高効率の空調設備を備えた施設を選べば、エネルギー消費を抑えつつ持続可能な運用が可能となります。
GPU専用データセンター設立の動き
近年では、GPUのニーズ拡大とともに、GPU専用のデータセンターを構築する動きも進んでいます。たとえば香川県では、GPUクラウドサービスを提供する企業と提携し、AI開発用のGPU専用データセンターを県内に設置しました。設置にあたっては廃校となった中学校を利用し、当該拠点をスタートアップ企業にも利用してもらうことで地域活性化も図っています。
参考:香川県「経済産業省が「特定重要物資供給確保計画」として認定 ハイレゾ香川による「AI開発用GPU専用データセンター」の立地」
NVIDIAのデータセンター向けGPU

データセンター向け世界のGPUのシェアの大半はNVIDIA社が占めている状況です。ドイツの調査会社が行った調査※によれば、データセンター向けGPU市場においてNVIDIA社は92%のシェアを獲得しており、デファクトスタンダードとなっています。
NVIDIAのデータセンター向けGPUの最大の特徴は、その圧倒的な性能です。たとえば同社が提供するである「NVIDIA H200 Tensor コア GPU」では、毎秒4.8テラバイト/sのメモリ帯域幅を持つHBM3eメモリが搭載されており、高い処理能力が要求されるシミュレーション、科学研究、AI推論などのタスクにおいてはCPUと比較して110倍の速さで結果を得ることができます。
※参考:IoTアナリティクス「生成AIの世界市場の分析 (2023年~2030年)」
トゥモロー・ネットでもNVIDIA社のデータセンター向けGPU製品を多数取り扱っています。
NVIDIA データセンター GPU製品
GPU | アーキテクチャ/特徴 | メモリ容量 | メモリ帯域幅 | 仕様(消費電力など) |
---|---|---|---|---|
H200 | データセンター向け高性能モデル。生成AIおよびHPCワークロード向け。HBM3eメモリ搭載。 | 141 GB | 4.8 TB/s | TDP(熱設計電力)Up to 700 W(SXM構成)/Up to 600 W(NVL構成) |
H100 | 高性能コンピューティングや大規模AIモデル向け。H100 Tensor コア GPU。 MIG(Multi-Instance GPU)対応。 | 80 GB(HBM2e)などモデルにより異なる仕様あり。 | 約2 TB/s など(構成により) | 高消費電力。複数GPUを接続する NVLink Switch システム対応など拡張性もあり。 |
L40S | AIおよびグラフィックス両方に応えるモデル。Ada Lovelace アーキテクチャ。パッシブ冷却。 | 48 GB GDDR6 | 864 GB/s | 最大消費電力 350 W。NVLink非対応。MIGサポートなし。補助電源 CEM5 16-pin 等。 |
L40 | ビジュアルコンピューティングに強いモデル。Ada Lovelace アーキテクチャ。セキュリティ機能(Secure Boot など)にも言及。 | 48 GB GDDR6 | 864 GB/s | 最大消費電力 300 W。NVLink非対応。MIG非対応。補助電源等条件あり。 |
L4 | ユニバーサルアクセラレータ寄り。映像処理/仮想化/軽量AI用途向け。Ada Lovelace アーキテクチャ。 | 24 GB GDDR6 | 300 GB/s | 最大消費電力約 72 W。補助電源不要のモデルあり。 |
HGX B200 | 最新Blackwell ベースのサーバ/AI クラスボード構成。大規模モデル学習・推論用途向け | 180GB HBM3E | 7.7TB/s (GPU 間 NVLink/NVSwitch による 1.8 TB/s バンド幅、合計 14.4 TB/s インターコネクト) | TDP(熱設計電力)最大 1,000W 構成可能。NVLink 5 世代、MIG 7 分割対応。 |
RTX PRO 6000 | Blackwell アーキテクチャ搭載/AI処理、グラフィック処理、科学計算向け | 96 GB GDDR7 (ECC 付き) | 1597 GB/秒 | 最大消費電力600W、パッシブ冷却、PCIe5.0×16、最大4つのMIGサポートあり |
弊社が取り扱っているデータセンター向けGPU製品について詳しく知りたい方は、以下のリンクもご覧ください。
関連製品:NVIDIA データセンターGPU製品
GPUサーバーをデータセンターで運用する際の注意点
以下では、GPUサーバーをデータセンターで運用するにあたっての注意点を紹介します。
冷却性能
GPUの性能を最大限発揮するためには、データセンターおよびラックの冷却性能が重要となります。高速で計算処理を行うGPUの発熱量は凄まじく、適切に排熱しないとGPUから出た熱がラック内にとどまりラック内温度が上昇してしまいます。ラック内温度が高まると、GPUは十分なパフォーマンスを発揮することができません。
一般的にデータセンターには各ラックを冷やせるように空調設備が整っていますが、その性能はデータセンターの設備によって異なります。GPUサーバーを設置するにあたっては、データセンターの冷却性能が重要です。
なお、NVIDIA社のGPU製品には、GPU内部に冷却液を通すことで、液体での冷却を行えるものも存在します。ラック内に液体冷却のための設備を導入することで、GPUの温度上昇を抑えやすくなります。
省エネルギー
高い性能を誇るGPUを利用すると、その分電気消費量も大きなものとなります。GPU製品によっても消費電力量に差はありますが、空調設備をはじめとしたデータセンター設備のエネルギー効率によっても消費電力量は大きく変わってきます。エネルギー効率の高いデータセンターを選ぶことで、コスト面のメリットもあります。
また、近年では環境負荷低減のために再生可能エネルギーを利用したデータセンターも増えています。データセンター内に太陽光パネルを設置しているデータセンターや、電力調達先となる電力会社から再生可能エネルギーで発電した電気を購入できるサービスを提供しているデータセンターもあります。SDGsの観点や自社のブランディングの観点から、再生可能エネルギーを利用できるデータセンターを選ぶことも選択肢となるでしょう。
電源容量
高密度なGPUサーバーは消費電力が非常に大きいため、機器の仕様を詳細に確認し、必要な電源設備を確保することが重要です。
また、データセンターによって1ラックあたりの電源供給能力が異なるため、サーバーの電力要件を満たせるデータセンターを選ぶことが重要です。
トゥモロー・ネットではNVIDIA データセンターGPU製品を多数取り扱われています。データセンター対応のGPUを探す方はぜひトゥモロー・ネットまでご相談ください。
データセンターを選ぶ際に確認したい追加ポイント
データセンターの利用を検討するときには、運用面も考慮してデータセンターを選ぶようにしましょう。
立地は適切か
GPUサーバーは発熱量が大きく、障害対応や定期メンテナンスの頻度が高いため、「すぐに駆けつけられる距離」にあるデータセンターが理想です。特に本社が首都圏にある企業は、保守ベンダーが集中する都内のデータセンターを選ぶことで、迅速な対応が期待できます。
また、GPUサーバーを社内オフィスから利用する場合、通信の遅延(レイテンシ)を抑えるには物理的な距離の近さが重要です。距離が短いほど通信がスムーズになり、AI処理やリモート操作のパフォーマンス向上につながります。
希望するネットワークを構築できるか
GPUサーバーとオフィス間の接続方法には、専用回線や閉域ネットワーク、VPN経由のインターネット接続など、いくつかの選択肢があります。また、社外ユーザー向けにAIサービスを展開する場合は、外部からの通信を安定的に受け止められる十分な帯域幅のインターネット回線が求められるケースもあります。
日本国内のネットワーク環境は高度に整っていますが、データセンターの立地や設備によっては希望の構成が実現しにくいこともあります。仮に対応できても、予算内に収まらない場合も想定されます。
そのため、データセンターを検討する段階でネットワーク回線の事業者にもあらかじめ相談することが大切です。
拡張性はあるか
将来的にGPUサーバーを追加導入する可能性がある場合、データセンターの空き状況や増設の柔軟性をあらかじめ確認しておくことが重要です。近年、GPU対応のデータセンターのニーズが急速に高まっており、いざ増設しようとしたときにすでに空きがないというケースも少なくありません。
空きスペースがない場合は、別フロアへの設置もしくは別のデータセンターを検討しないとはいけない可能性もあります。そのため、あらかじめデータセンター側の拡張性を確認しておきましょう。
運用管理体制
サーバーを長期的に安定稼働させるためには、データセンターの運用管理体制を確認しておく必要があります。障害発生時の対応速度や部品交換・冷却装置のメンテナンス、さらには現地サポート体制や遠隔監視の有無などをチェックすることで、安心して運用を任せられるかどうかを判断できます。
運用コスト
GPUサーバーは高性能ゆえに消費電力が大きく、電気料金や空調コストが直接的な運用コストに影響します。エネルギー効率の高い設備を備えたデータセンターを選べば、長期的なコスト削減が可能です。
また、再生可能エネルギーを導入しているデータセンターを選ぶことで、環境負荷の低減やSDGsへの貢献、さらには企業ブランディングの観点からもプラスになります。
冗長性と信頼性
電源系統や冷却系統の冗長構成は、障害時の稼働率(SLA)に直結します。UPSや非常用発電機の有無、さらにSLAで保証される稼働率を確認しておくことで、万一の事態にも安心してサービスを継続できます。
環境認証とセキュリティ
GPUサーバーは機密性の高いデータを扱うことも多いため、物理的な安全性やアクセス管理、データ漏洩防止策を確認することが重要です。ISO27001(情報セキュリティマネジメント)やISO14001(環境マネジメント)などの認証を取得しているデータセンターであれば、運用品質や信頼性の裏付けとなります。
まとめ
この記事では、データセンターにおけるGPUの役割やデータセンターでGPUを運用するメリット、またその際の注意点についてご紹介しました。冷却設備や電源設備が整ったデータセンターを利用することで、GPUの持つ性能を最大限発揮しつつ、安定的にGPUサーバーを利用することができます。LLMの構築や科学技術計算などはもちろんのこと、AIモデルの開発環境構築やビッグデータ分析など、様々なユースケースでデータセンター向けGPUは有効です。
トゥモロー・ネットでご支援できること
トゥモロー・ネットでは、NVIDIAのパートナー、Supermicroの一次代理店としてデータセンター向けのGPU製品の販売や導入サポートを実施しています。きめ細やかな提案、構築、導入を提供いたしますので、GPUをお探しの方はぜひお問合せください。
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この記事を書いた人

株式会社トゥモロー・ネット
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