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仮想GPU(vGPU)とは?仕組みやAI分野での活用例【トゥモロー・ネット テックブログ】

AI(人工知能)技術の急速な発展や、高度なグラフィック処理を必要とするアプリケーションの普及に伴い、GPU(Graphics Processing Unit)の重要性が飛躍的に高まっています。
しかし、高性能な物理GPUは高価であり、そのリソースを効率的に活用することが課題でした。この課題を解決する技術として注目されているのが「仮想GPU(vGPU)」です。

本記事では、「仮想GPUとは何か?」「vGPUとはどういうもの?」といった基本的な疑問から、その仕組み、メリット、AI分野をはじめとする具体的な活用例、さらには最新の技術動向や導入事例まで、網羅的に解説します。
この記事を読むことで、vGPUの全貌を理解し、ビジネスにおける活用可能性を探る一助となれば幸いです。

仮想GPU(vGPU)とは?

vGPUは1台のGPUを複数の仮想マシンやコンテナなどで併用するために、仮想的にGPUを分割する技術です。各GPUメーカーの製品には仮想化機能が用意されており、たとえばGPU製品のトップランナーであるNVIDIA社では「NVIDIA vGPU」という名称で仮想化の機能が提供されています。

従来、VDIによる仮想デスクトップ環境構築において高度なグラフィック処理を行いたい場合、GPUパススルーにより仮想マシンとGPUを1対1で紐づけて利用していましたが、この方式では各仮想マシンユーザーがGPUを占有利用することになり、効率的にGPUを利用することは難しかったといえます。vGPUにより、VDI環境で効率的なGPU利用が実現できるようになり、CADやCAEなどのソフトウェアも利用しやすくなりました。 

また、サーバー上での機械学習モデルの学習/推論を行う際にも、各仮想サーバーやコンテナにvGPUを配置することで、限りあるGPU資源を効率的に利用できます。

なぜ今、仮想GPUが必要とされているのか

仮想GPUが必要とされている背景には以下のようなことがあります。

  1. AI・機械学習の本格化
    ディープラーニングモデルの学習や推論には膨大なGPUリソースが必要であり、vGPUによる効率的なリソース配分が不可欠です。
  2. 高度なグラフィック処理の一般化
    3D CAD、BIM/CIM、映像編集、VR/ARなど、専門分野だけでなく一般業務でもGPUパワーを必要とする場面が増えています。
  3. リモートワークの浸透とVDIの進化
    場所を選ばない働き方が広がる中、VDI環境でもオフィスと同等以上のパフォーマンスが求められ、vGPUがその鍵を握ります。
  4. コスト効率と柔軟性の追求
    高価な物理GPUを必要なユーザーに必要な分だけ割り当てることで、投資対効果を最大化できます。

vGPUの仕組み

ここでは、NVIDIA vGPUを例にvGPUの仕組みをご紹介します。NVIDIA vGPUでは、物理サーバーに搭載されたGPUをvGPU Managerにより分割し、仮想的にvGPUを生成します。生成したvGPUを仮想マシンやコンテナに割り当てることで、複数の仮想マシンやコンテナでGPUを併用できます。

たとえば、コンテナ管理ツールであるKubernetesで複数のコンテナを作成し、そこで個別のアプリを動かす場合、そのままだと1コンテナで1つの物理GPUを占有してしまいます。vGPUで物理GPUを分割し、各コンテナにvGPUを割り当てることで、1つの物理GPUを効率よく運用できます。

NVIDIA vGPUでは、物理GPUのコアはタイムスケジューリングにより分割利用されます。非常に短い時間単位でコアを利用するvGPUを切り替えることで、複数のvGPUでコアを併用しています。また、物理GPUのメモリ領域は各vGPUに占有で割り当てられます。たとえば48GBのメモリ容量を持っているGPUを4つのvGPUで利用する場合、各vGPUに割り当てられるメモリは12GBずつとなります。

NVIDIA vGPUの4つのライセンス

NVIDIA vGPUを利用するためには、用途に応じたライセンスが必要です。NVIDIA vGPUでは以下の4種類のライセンスが用意されています。ライセンスごとに、仮想デスクトップの構築可否やRDSHによるホスティングの可否、最大画面数、最大解像度などが定められています。

各ライセンスの概要は以下のとおりです。

NVIDIA Virtual Compute Server (vCS)

機械学習やデータ分析、GPGPU処理などを実施する場合に利用するライセンスです。仮想マシン上で高負荷なワークロードを処理する場合に利用されます。

NVIDIA RTX 仮想ワークステーション (vWS)

仮想デスクトップ環境上で、3D CADやCG制作など、高度なグラフィック処理を行うソフトウェアを利用する際のライセンスです。

NVIDIA 仮想 PC (vPC)

仮想デスクトップ上で、動画閲覧やドキュメント編集などのPC作業においてグラフィック性能を強化したい場合に利用するライセンスです。

NVIDIA 仮想アプリケーション (vApp)

リモートデスクトップセッションホスト (RDSH)ソリューションを使用する場合に利用するライセンスです。

用途に応じてこれらの各ライセンスを取得したうえで「NVIDIA License System」によるライセンス認証を実施することで、各vGPUは有効化されます。

vGPUとMIG

vGPUと似た概念にMIG(マルチインスタンスGPU)という技術が挙げられます。MIGはNVIDA社が提供している技術であり、ソフトウェアレベルで分割を行うvGPUと異なり、MIGはハードウェアレベルで仮想化を行う仕組みです。MIGでは1つの物理GPUを最大7つの仮想GPUに分割することができます。

NVIDAのAmpereアーキテクチャ以降で導入された技術であり、ハードウェアレベルでGPUの分割を行うことで、処理のオーバーヘッドを抑えられるというメリットがあります。

vGPUの活用方法

vGPUの主な活用方法、ユースケースは以下のとおりです。

機械学習環境の基盤構築

vGPUのユースケース例として、機械学習環境の構築が挙げられます。機械学習環境を複数人で利用し、AIモデルの開発を行う際に有効な構成です。高価なGPUを効率的に利用するために、vGPUによりリソースを分割しリソースの空きを減らすことができます。

なお、NVIDIA社が提供するAIプラットフォームであるNVIDIA AI Enterpriseにおいても、vGPUを用いたAI実装がサポートされています。NVIDIA AI EnterpriseにはAIモデル開発のための様々な機能が備わっており、機械学習環境の構築において有効なツールです。

高度なグラフィック処理を要する仮想デスクトップ環境の構築

CADソフトウェアでの自動車、建築物などの設計作業や、BIMによる建設構造物の設計作業など、仮想デスクトップ環境において高度なグラフィック処理を行う場合にvGPU技術を利用できます。単一のGPUを複数の仮想デスクトップで併用できれば、限られたGPU資源を効率的に活用できます。特に仮想デスクトップの利用タイミングが分散している場合には、コストメリットを高めることができます。

HPCや大規模データ解析などでの大規模並列処理

研究目的やビジネス目的などで大量のデータ処理を行う際にも、vGPUの活用が有効です。複数人で併用する分析環境においては、GPU資源の割り当てを柔軟に行うことでコスト効率化を図れます。たとえば研究機関や大学などにおいて学術的な計算処理やシミュレーションを行う場合にはハイスペックなマシンが必要となりますが、各利用者は365日マシンを利用するわけではありません。コストを抑えつつ多くの利用者にGPUを利用してもらうために、vGPUの活用が有効です。

vGPUの導入事例

vGPU技術は、既に多くの企業や組織で導入され、具体的な成果を上げています。ここでは、いくつかの代表的な導入事例をご紹介します。

VDI環境でのグラフィック処理向上事例 (CAD/BIM)

建築設計会社

建築設計を主業務とする同社は、BIM(Building Information Modeling)ソフトウェアをVDI環境で利用する「BIM on VDI」をNVIDIA vGPU(旧NVIDIA GRID)の活用により実現しました。

導入前は高性能ワークステーションの管理やデータ共有に課題がありましたが、vGPU導入により、場所を選ばない設計作業、データの一元管理によるセキュリティ強化、複数人でのスムーズなモデル共有が可能となり、業務効率が大幅に向上しました。

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建設会社

同社は、建設現場や自宅など場所を選ばずにBIM/CIMソフトウェアを利用できる環境を整備するため、NVIDIA RTX Virtual Workstation (RTX vWS) を活用したVDI環境を構築。

これにより、設計・施工業務の生産性向上を実現しています。

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多様な業種でのvGPU活用事例

特定のITソリューションプロバイダーの顧客事例からは、建設業以外にも幅広い業種でvGPUが活用されていることが分かります。

食品メーカー

VDI環境にvGPUを導入し、グラフィック性能を向上させることで、全社的な業務効率化と快適なリモートワーク環境を実現しました。

生命保険会社

セキュアなリモートワーク環境とBCP(事業継続計画)対策の一環として、vGPUを活用したVDIを導入。
場所にとらわれない柔軟な働き方をサポートしています。

自動車メーカー

設計・開発業務における3D CADなどのグラフィック負荷の高いアプリケーションをVDI環境で利用するため、NVIDIA RTX vWSを導入。
高いグラフィック性能とデータセキュリティを両立させています。

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これらの事例は、vGPUがCAD/BIM利用の高度化だけでなく、一般的なオフィス業務の快適性向上やセキュアなリモートアクセス基盤としても有効であることを示しています。

AI開発においては、これらのVDI環境をベースに、AI開発ツールやライブラリを導入することで、セキュアかつ効率的なAIワークロード実行基盤を構築できます。

まとめ

この記事では、仮想GPUの概要や仕組み、具体的なユースケース例についてご紹介しました。AIモデルの開発やシミュレーションなど、GPUのニーズが高まる一方で、GPUの確保の難しさやそのコストから、効率的にGPUを利用していく必要があります。仮想GPUの利用により、限られたGPUリソースを効率的に利用することができます。

トゥモロー・ネットでご支援できること

株式会社トゥモロー・ネットは、お客様のニーズに合わせた最適なvGPUソリューションの導入をご支援いたします。

コンサルティング

お客様の業務内容や課題をヒアリングし、最適なvGPU環境(オンプレミス、クラウド、ハイブリッド)の選定、サイジング、設計を行います。

環境構築

NVIDIA vGPUソフトウェアや関連する仮想化基盤(VMwareなど)の導入、設定、検証を専門のエンジニアが担当します。

AI開発基盤構築支援

vGPU環境を基盤としたAI開発プラットフォーム(NVIDIA AI Enterpriseなど)の導入や、機械学習ワークロードの最適化もサポートします。

運用・保守サポート

導入後の安定稼働に向けた運用支援や、トラブルシューティング、パフォーマンスチューニングなど、継続的なサポートを提供します。

「vGPUを導入してAI開発を加速させたい」「3D CAD環境をVDI化して生産性を向上させたい」「セキュアで高性能なリモートワーク環境を構築したい」といったご要望がございましたら、ぜひお気軽にトゥモロー・ネットにご相談ください。経験豊富なスタッフが、お客様のビジネス変革を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

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